Say to Day
is
created
by
two
practitioners
Say to Day
Multilingual cross-discipline exploration
アーティスト:稲川豊 | キュレーター:イェン・クウォック
Say to Day はアーティストの稲川豊(尾道在住)とインディペンデント・キュレーターのイェン・クウォック(香港在住)によるオンライン・デジタル・コラボレーションである。
オンライン・プラットフォームのデジタル・アーキテクチャを探求することを意図し, アーティストやキュレーターとして彼らが直面しているヴァーチャル環境の建築的特徴や制約をより深く理解、表現するための実験場としてインスタグラムとウェブサイトを構築した。物理的な空間のコンディションや配置に芸術的な価値を見出すのと同様に、インスタグラムもウェブサイトも独自の “空間”を有している。
デジタル世界における無限の可能性は、非線形な物語を可能にし、非論理的なアプローチの道を開く。ここでの唯一の制限は、デジタルデバイスに触れたその日から構築され、何年も蓄積され続けている我々の知識と習慣的行動である。情報を閲覧するために上下左右へ画面をスワイプする指の動作は、自然と目の動きに連動している。下線が引かれた色のテキストをクリックすることで、ウェブサイト上の別の“空間”に移動することを私たち全員が理解しているかのように感じるのはなぜだろうか?本プロジェクトは、これら既存の理解に基づいてコラボレーションのあり方を探求し、それと同時にこれまでの知識を断捨離(unlearn)し、問いを抱き、積極的にオルタナティヴなあり方を模索する。
また本コラボレーションは、異文化間の対話の創出(それはしばし伝達不能なものであるが)に焦点を当てた、多言語の体験でもある。アーティストとキュレーターはそれぞれ東京と香港で生まれ育ち、時を同じくしてイギリスに長期滞在し、大学で共に学んだ。海外での生活と仕事の経験は、彼ら自身の文化や生い立ちを再考し、振り返る原動力となった。
日本人は外来のものを何でも自分たちのものに変換するのが得意だと、稲川は推察する。これは、様々なものから栄養を吸収して伝統を追求し続ける日本人の力強い独自性ともいえる。だがしかし、彼はこれに違和感を抱く。本プロジェクトを外来/異質性とは何か、および彼の日本人としての海外生活経験を再検証する機宜とし、外来/異質性がどの程度、本来のありようを保持し認知されているか、そして実際には個々の知見や経験によって、どの程度のフィルターがかけられているのか、創造的かつ実践的アプローチをもって考察する。
これら全ての要素は、言語的誤訳ならびに日本における“内/外”の二極化した概念への稲川の深い関心により支えられている。東京での幼少時代や当時の記憶を遡ると、国内/外来が、慎重にキュレーションされた日本的作法によって、捻れを伴うスナップショットとして分類されるその場所は、島国的且つ単一文化的なものであった。これらの誤訳のテクスチャは、彼が駆使するテキストとイメージが言葉通りの意味を纏うこともできるが、また、社会的意味を持つことも可能であり、個人的・文化的なレベルにおいて様々な参照ポイントや解釈へと導く彼の作品に顕著に現れている。
Say to Dayは多角的越境(multidisciplinary)を体現するプラットフォームと文化に内在する変異(transformation)と誤訳を祝福するプロジェクトである。それはアートを通じた一連の探索のはじまりなのである。
2020
Ying Kwok is a curator
©
Yutaka Inagawa is an artist
supported by
Onomichi City University
media sponsor: Glass Magazine
イェン・クウォックは
イェン・クウォックは、香港を拠点に活動するインディペンデント・キュレーター。アーティスト主導の企画や国際的アート・フェスティバル、公共の美術館ならびにコマーシャル・セクターなど、国内外の美術館や文化施設等で数々のプロジェクトを手がける。サイト・スペシフィックなコミッションワーク、パフォーマンスから映画・ビデオに至るまで、常に現代のビジュアル・アートに異なるアートの形式を掛け合わせた複合的なアプローチをとる。
主な活動としてPeer to Peer: UK/HK 2020のフェスティバル・ディレクター、Contagious Cities: Far Away, Too Close, Tai Kwun Contemporary and Wellcome Trustのキュレーター、LOOK International Photography Festival 2017のリード・キュレーター、香港の美術館M+ のキュレーターとして57thヴェネチア・ビエンナーレの香港のプレゼンテーションSamson Young: Songs for Disaster Relief の企画などがある。
インディペンデント・キュレーターとしてのキャリアを歩み始める以前は、マンチェスターのCentre for Chinese Contemporary Art にキュレーターとして2006年から2012年まで勤務。
その他、2014年に香港のアート関係者と共に香港における批評的思考および実効性を伴うアート・ディスカッションの始動を促進することを目的としたArt Appraisal Clubを設立。定期的に展示会のレビューを行い、その記事は雑誌媒体や様々な文化的ネットワーク、および独自のバイリンガル・ジャーナル“Art Review Hong Kong”に掲載。2014年にはアジアン・カルチュラル・カウンシル・フェローシップを受賞。Clore Leadership Programme 2018/19 のインターナショナル・フェローに選出される。
稲川豊は
稲川豊は、ハイパー・デジタル・ワールドに存在する不明瞭で変幻自在なモジュールの数々を観る者に提示する。物質的なものと実体を伴わないデジタルの双方を操り、それらを共存させる方法は、彼の実践の中核をなしている。無意味なアッサンブラージュは、日々スタジオから生み出される実験的な創造物と日常の心象・イメージ群を取り混ぜたものであり、デジタル時代における非デジタルネイティブの視点を取り入れながら、創造プロセスにおける可謬性や多義性を祝福するものだ。
弛緩を豊潤へと発展させること、その数々の産物−−これらは「不可解さの構文」を生み出し、私たちの知覚に潜む誤変換を導き出す。気まぐれな換言や作為的な転置は楔となり、すでに揺らいでいる合理性と急速に広がっている不確実性の間に存在する力学の決壊を促すのである。
広く集められた変容自在なマテリアルは、エントロピーの際に半有機的な塊を形成し、作家の虚像のような創造物となる。マテリアルは新たな存在意義を与えられ、作家の意図の周縁にあるものが前面に押し出されて、本来の意図とは違う作品へとたどり着く。そこでは、社会文化的な機能不全とそれがもたらす複雑怪奇な分岐の実例が「コンテンポラリー・サブライム(アップデートされた崇高)」の触媒として用いられるのである。
実験的なインターナショナル・アートプロジェクト「オンリー・コネクト」(2015–)や「Floating Urban Slime/Sublime」(2017–)のディレクターを務める。主な活動にAnother Pair of Eyes (artist-curator), Duddell’s, 香港(2019-2020), ONLY CONNECT OSAKA (artist-curator), クリエイティブセンター大阪(CCO), 大阪 (2019), I say Yesterday, You Hear Tomorrow. Vision from Japan (group show), Gallerie delle Prigioni, Treviso, イタリア (2018), Collaboration with Glass Magazine for “belief” issue (2015), Sensory Cocktails, Gallery Zandari, ソウル(2009)がある。
尾道市立大学・美術学科の准教授。